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高校の先生による本の紹介


「さあ数学しよう!−ハイスクールでの対話−」Serge Lang著、 (岩波書店) by 西岡孝昭
「現代数学への招待--多様体とは何か」志賀浩二著(岩波書店)  by  丸林哲也
「生きていくのはアンタ自身よ 佐保利流「人生」「勉強」トラの巻」森毅著(PHP文庫) by 阪口由佳


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「さあ数学しよう!-ハイスクールでの対話-」Serge Lang著、松坂和夫・大橋義房訳、1987年3月19日第1刷発行、204ページ\1300、岩波書店 by 西岡孝昭

「数学は、なぜか学校教育で生徒たちからきらわれている教科になっています。(裏表紙)」

K:なぜかだって?
偏差値で輪切りにされて、入試の数学が0点の子だって高校には入ってるんだよ。
中学から数学の授業時間は見学者扱いされ続けていた子もいる。
あんまりできないから先生に首をしめられたって子もいる。
数学のできる同級生たちが幸せな進路をとっていくたびに、暗い気持ちが重なりそのまま入ってきた高校で、「楽しく面白い数学(表紙)」なんてできるものか。


「面積の式に現れるのと同じ定数が、こうした形で円周の式に現れるというのは、驚くべき事実である(p.19パイとは何か?)」

T:まあまあ、そんなに怒らずに。
半径1の円の面積をπと定義して、半径rの円周の長さは2πrであることを証明する。極限の考えを使いながらのこの証明はよくわかるだろう。
円周率という言葉でイメージをしばられている高校生たちにはいい教材だと思う。
円周率というよりパイと言う方が丸いものを思い浮かべるし、まず面積がイメージされるのではないか。


「最も簡単な場合は何だろう。(p.49立体の体積)」

K:僕の高校の生徒は最も簡単な場合でもあやしいんだ。
T:でもこの節は、1辺1の立方体を中心で6つに割って、その4角錐の体積が1/6であることからスタートする。
K:分数がむづかしいが、まぁいいことにしよう。
T:その簡単な図形から始めて、「3次元において、r,s,tの倍率で相似変換をすると、立体の体積は積rstの倍率で変化する。(p.46)」ことや「傾斜やずらしによって、面積は変わらない。(p.61)」こと「底面を長方形で近似する(p.66)」ことなどを使って、錐体の体積までたどり着く。
この流れは、トロント郊外のハイスクールの生徒に負けず、僕らの生徒たちも興味を持ってくれそうだ。
次の球の体積からは計算が増えるから、また君が何か言いそうだがね。
K:しかし、この節で「相似変換」と訳してあるのは、円が楕円に移るのも含めているので、ちょっと範囲が広すぎじゃないか。アフィン変換とすべきだ。


「(小さい球の表面積)×h≦帯の体積≦(大きい球の表面積)×h(p.126球の表面積)」

K:ここは難しい。前の節に円周の長さがあって、その説明はよく分かるが。スポンジのような物で球をくるむ図でもかくのか?
それに「帯」と言うよりは「饅頭の皮」の方がいい。
T:「皮の体積=(中くらいの球の表面積)×hとなる中くらいの球が存在する。」も難しいしね。ステファン君分かったのかな?(1996.11.9記)

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「現代数学への招待−多様体とは何か−」志賀浩二著、岩波書店1979 by 丸林哲也

 1カ月の時間がありながらまだ第4章へ入ったばかりで肝心の第4章・第5章が未読の状態です.したがって,第4章の途中までの書評を書きます.(次回には全部読んだ書評を書きます)
 著者のこの本で意図するところは,「現代数学の普通のテキストには記載されていないし,数学者の意識の中においても,普段は深く潜んでいるようなものを私なりに取り出して,述べることであった.無論,そのような試みを支える基調は,多様体の周辺にある.」と前書きにあります.また普通の数学書において,主観の介在を避けるために数学の意味にふれることは極力避ける傾向にあるところを,この本では現代数学の意味するところを積極的に問う道を選んでいます.
 ところで,従来数学者はこの種の本を書くことを何かレベルの低い本を書くというような認識があって,敢えてしなかったことではないでしょうか.(実際のところを数学者にお聞きしたいですが・・・)そこで,世界的な数学者の著者がこのような試みをされたところに大きな意義があるように思われます.
 そういえば著者が定年を余して東京工大の教授を辞され桐蔭学園横浜大学へ移られ,それと前後して「対話・20世紀数学の飛翔」シリーズ(日本評論社)・・・1解析学の表現したもの(青本和彦+志賀浩二),2数学を育てる土壌(上野健爾+志賀浩二),3確率論をめぐって(高橋陽一朗+志賀浩二),4数学のおもしろさ(斉藤恭司+志賀浩二),5トポロジーの展開(森田茂之+志賀浩二)・・・や数学30講シリーズ(朝倉書店)等の著作により積極的に数学教育や若い世代への数学の啓蒙と普及に力を注がれているように感じられます.その後,数学離れとかがクローズアップされてきていますが,著者はそのことを当時身近にすでに感じられていたのではないでしょうか.現在,大学の数学者も積極的に数学教育や数学の普及に力をそそがれている現状を見聞きするなかで我々高校の教師も生徒も数学を勉強する機会や環境は徐々によくなりつつあると思います.従って,この機会にしっかり勉強しましょう.(自戒の念を込めて)
 さて,この本について,まず全体にいえることは,例や,図が一貫していて,なめらかな口調で書かれているという感じがします.忘れた定義等が出てくれば,前に戻って確認しながら読むことも容易であります.とはいえやはり,索引は付けていただきたかった.厳密に書かれた数学書とタイプは異にする本であるからその必要もないかとも思われまが.ただ考えようによっては,この索引がないということは,著者の教育的な意図によるもので,読者が自ら索引をつくって読むことによって,内容の理解が深まることを期待したのかもしれません.そういう意味でこの本の索引をつくってみようと思います.
 1章は2章への準備という内容で,座標や球面について書かれています.特に2次元球面から3次元球面について,親切な図を入れて説明されており,この内容は「高校生のための数学TU」にも書かれています.「高校生のための数学TU」も含めてもう少しきちんと読んでみます.
 2章では近さの場として,位相空間が書かれています.項目は1.距離の概念,2.近さの概念,3.位相空間から実数に向けて,4.位相多様体となっています.どうしても普段高校の数学を教えていて,このような概念を使う機会に恵まれないので・・・.
 3章は微分についてという内容で書かれていますが,これは4章の可微分多様体への準備という内容です.つまり2章で近さの概念から位相空間から,さらに位相多様体を定義して3章で滑らかさの概念として微分構造を考え,位相多様体に微分構造導入して(可微分)多様体をを定義していく.
 5章は動きゆく場(バンドル)と続いていきますが,続きは次回に自戒を込めて書かせていただきます.(1996.11.9記)

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「生きていくのはアンタ自身よ 佐保利流「人生」「勉強」トラの巻」森毅著 by 阪口由佳

 10月の月例会で、今月から何か一人一冊ずつ数学に関する本を読んで、次回の月例会には、書評を持ち寄ろうということになった。その時、たまたま、私のかばんの中に入っていたのが、森 毅先生のこの一冊。ほとんど数学とは無関係であるように思えるタイトルであるが、読んでみると、森先生の考える数学と、人生・生き方とをうまく結びつけて、現代社会の諸問題や学校現場の受験競争やイジメ問題にも踏み込んで述べてある。数学嫌いの人もこの一冊で、自分にあったやり方、生き方を見つけるヒントになるんじゃないかと思える位である。
 とりわけ、佐保利流「勉強」トラの巻の中で4番目のところにこんな言葉が出てくる。 《目の前のテストのことを考えれば、気もあせるかもしれないが長いさきのことを考えると、テストの点数を少し上げるよりは、うまいつきあい方をする方が大事だ。人によって、勉強のやり方は違うだろうが、その間、数学の風景を眺め、数学の声に耳をかたむけているかどうかだけは、決定的だと思う。そのうち、心が数学に向かって開いてくる。》と・・・。
 森先生の言われる通り、こんな気持ちで数学と向き合えたら、最高だと思う。授業の時にも、心の片隅にこの気持ちとゆとりを持って接していきたい。 どうしても点数(うちの学校では、35点未満が赤点)にこだわってしまう現場の教師のひとりとして、とっても参考になる教育書かも?と思える本でした。
 今回はクラブの大会のため、出席できなかったけれど、次回は、志賀浩二さんの「無限への一歩」を読んでみたいと考えている。(1996.11.9記)

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